閉店を決めて、まず頭をよぎるのが「原状回復にいくらかかるのか」という不安ではないでしょうか。契約書を読み返すたびに胃が締まる思いをされているオーナー様も少なくありません。この記事では、飲食店の原状回復費用の相場と、費用が高額になる理由、そして実際に費用を大幅に抑えられた事例をもとに、退去時に取りうる選択肢を整理してお伝えします。
飲食店の原状回復費用の相場は坪10〜15万円が目安
飲食店の原状回復費用は、坪単価10〜15万円が一般的な相場です。100㎡(約30坪)の店舗であれば、最低でも150万円前後かかる計算になります。
ただしこれはあくまで「最低ライン」の目安です。業態・立地・契約条件によって、坪20〜50万円まで跳ね上がるケースも珍しくありません。
| 業態 | 坪単価の目安 | 30坪換算 |
|---|---|---|
| 軽飲食(カフェ・テイクアウト等) | 5〜8万円 | 150〜240万円 |
| 一般飲食(居酒屋・定食屋等) | 10〜15万円 | 300〜450万円 |
| 重飲食(焼肉・ラーメン・鉄板等) | 15〜25万円 | 450〜750万円 |
| 商業施設・特殊立地(高架下等) | 20〜50万円以上 | 600万〜1,500万円以上 |
居住用の賃貸と異なり、事業用テナントは原状回復費用の全額を借主(テナント側)が負担するのが一般的です。「原状回復は借主・貸主で折半」というルールは居住用には存在しますが、店舗の場合はほぼ全額テナント負担と思っておいた方がよいでしょう。
費用が高額になる3つの理由
1. 重飲食の油汚れ・ダクト撤去
焼肉・ラーメン・鉄板焼きなど油煙が多い業態では、ダクトの内部洗浄・撤去に高額な費用がかかります。油汚れが壁や天井に染み込んでいる場合は塗装やボード張り替えが必要になることもあります。
2. 商業施設・特殊立地の割増費用
商業施設内やビル内のテナントでは、作業が夜間限定だったり、施設側の管理者が常駐する費用が加算されたりします。その結果、通常より30〜50%の割増料金が発生するケースがあります。
3. 指定業者制度による相見積もり不可
多くの店舗賃貸では、賃貸借契約書に「原状回復は貸主指定の業者が行う」という条項が含まれています。この場合、テナント側は複数の業者に見積もりを依頼することができません。相見積もりができないため価格の妥当性を判断しにくく、結果的に高額な請求を受け入れざるを得ないというケースが多く発生しています。
指定業者制度が存在する理由は、退去時に安い業者が工事を行うことでビル全体の設備に影響が出るリスクを防ぐためです。ただし、相見積もりができない構造上、費用が適正かどうかの検証が難しいのが実情です。
「1,800万円の請求」が届いた実例——指定業者問題の現実
実際に弊社が担当した事例をご紹介します。
高架下にある約30坪の店舗で、退去時に提示された原状回復費用の見積もりは1,800万円でした。電鉄系の子会社が建設会社を兼ねており、契約上その会社以外に工事を発注することができない状況でした。相見積もりも交渉の余地もなく、テナント側は「支払うしかない」という気持ちで退去準備を進めていたそうです。
転機になったのは、知り合いの社労士からの一言でした。「そのまま払う前に、居抜き売却の専門家に相談してみたほうがいい」と言われ、弊社にご連絡をいただきました。
その後、貸主との交渉を経て居抜き譲渡に切り替え、原状回復費用は免除となりました。なお、この物件は定期借家で残存期間が短く、造作は無償譲渡となったため売却益は発生していません。それでも、1,800万円の原状回復費用の負担をまるごと回避できたことの価値は非常に大きなものでした。
なお、この物件の次のテナント様には、退去時に同様の高額な原状回復費用が発生する可能性があることと、その金額の目安を事前にお伝えしてあります。知らずに入居してしまうことで困られるオーナー様を出さないための対応です。
原状回復費用を抑えるために知っておきたい3つの方法
1. 退去前に「居抜き売却」を検討する
最も効果的な方法は、スケルトン工事(原状回復)の前に居抜き売却を検討することです。次のテナントが内装・設備をそのまま引き継ぐ形であれば、原状回復費用が免除または大幅に軽減される交渉ができます。貸主の合意が必要ですが、空室リスクを避けたい貸主にとってもメリットがあるため、交渉が成立するケースは少なくありません。
居抜き売却の詳しい仕組みについては、飲食店の居抜き売却とは|仕組みと流れをわかりやすく解説もあわせてご覧ください。
2. 契約書の「原状回復の範囲」を確認する
原状回復の範囲は契約書によって異なります。「スケルトン(躯体だけの状態)に戻す」という条件の場合と、「入居時の状態に戻す(B工事分を残す)」という条件では、費用に大きな差が出ます。まず契約書を確認し、弁護士や不動産の専門家に相談することをおすすめします。
3. 相見積もりが可能な場合は最低3社に依頼する
指定業者の縛りがなければ、最低3社から見積もりを取ることが推奨されています。同じ工事内容でも業者によって金額が数十〜数百万円変わることがあります。ただし前述のとおり、指定業者制度がある場合は相見積もり自体ができないことも多いため、まず契約書の確認が優先です。
スケルトン返却と居抜き売却、費用の比較
| 項目 | スケルトン返却(原状回復) | 居抜き売却 |
|---|---|---|
| 原状回復費用 | 坪10〜50万円(借主全額負担) | 免除または大幅軽減の交渉が可能 |
| 退去にかかる収支 | 費用のみ発生(収益なし) | 造作譲渡料として売却益が得られる場合あり |
| 貸主との交渉 | 不要(契約どおり実施) | 貸主の合意が必要 |
| 期間 | 工事完了後に退去 | 譲受人が決まり次第退去(最短1ヶ月も) |
| 設備・内装の処分 | 撤去費用が発生する | 次のテナントに引き継ぐため不要 |
スケルトン返却と居抜き売却では、費用面だけでなくトータルの収支が大きく変わります。閉店を決めた段階で、まず居抜き売却が可能かどうかを確認することが重要です。
よくある質問
Q. 契約書に「スケルトン返却」と書いてあっても居抜き売却に変更できますか?
A. 貸主の合意があれば変更できる場合があります。貸主側にとっても空室期間を短縮できるメリットがあるため、交渉の余地があります。ただし契約内容・貸主の意向によって異なりますので、専門家への相談を通じて進めることをおすすめします。弊社では交渉の段階からサポートしております。
Q. 原状回復費用の見積もりが高すぎると感じたら、どうすればよいですか?
A. まず契約書で「工事業者の指定の有無」と「原状回復の範囲(スケルトンか現状回復か)」を確認してください。指定業者でない場合は複数社への相見積もりが有効です。見積もり内容の妥当性については、不動産・建築の専門家に確認を依頼することも選択肢の一つです。また、居抜き売却に切り替えることで費用そのものを回避できる可能性もありますので、退去前に一度ご相談ください。
Q. 飲食店の原状回復は「借主の全額負担」が必ずルールなのですか?
A. 法律上の定めではなく、事業用賃貸の慣習として「借主全額負担」が一般的です。ただし契約書の内容によっては、一部費用を貸主が負担するケースもあります。また、国土交通省のガイドラインは居住用を対象としており、事業用テナントには直接適用されません。契約内容の解釈については弁護士への相談を推奨します。
まとめ
飲食店の原状回復費用は、業態・立地・契約内容によって大きく異なります。
- 坪単価の相場は10〜15万円。重飲食や特殊立地では20〜50万円以上になることも
- 事業用テナントは原状回復費の全額借主負担が一般的
- 指定業者制度で相見積もりが取れず、高額になりやすい構造がある
- 居抜き売却に切り替えることで、原状回復費用の免除+売却益の両取りができるケースがある
- 閉店・退去を決めたら、原状回復工事の前にまず専門家に相談することが重要
1,800万円の請求を目の前にしても、別の選択肢が存在することを知っていれば結果は大きく変わります。「支払うしかない」と諦める前に、ぜひ一度ご相談ください。
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